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齋藤陽介インタビュー 第6回2023.11.24

齊藤陽介(さいとう ようすけ)
スクウェア・エニックスのゲームプロデューサー。スクウェア・エニックス取締役執行役員。愛称はよーすぴ。代表作品としては『ドラゴンクエストXオンライン』「ニーア」シリーズなど。また3Dアイドルユニット「GEMS COMPANY」プロデュース活動にも携わる。

■改めて考えるPBM的な参加型エンターテインメントの最新形

 

──奈須きのこ[i]さんのインタビューの際にも話したんですが、宮崎英高[ii]さんもやはりPBMを含むRPG黎明期の洗礼を受けている人じゃないですか。そのへんの世代の人たちがそれぞれのアプローチで原体験を追求していった結果、2010年代以降くらいから開花している状況があると思うんですよね。奈須さんであればジャンルハイブリッドなストーリーテリング、宮崎さんであれば海外ファンタジーのテイストとストイックなゲームメカニクスだったとすれば、齊藤さんはMMORPGをはじめ、大勢のプレイヤーが楽しめる遊び場づくりとガバナンスという方向性でそれぞれのモチベーションを昇華していったようにも思えるんですが、ご自身の感覚的にはいかがでしょうか。

 

齊藤 そうですね、国産MMOがまだ黎明期だった『クロスゲート』当時は自分でサーバ担いで自分でサーバルームのラックに差し込んでいたりしましたが、あの規模だからできたことでしたね。『ドラゴンクエストⅩ オンライン』の場合はMMORPGとはちょっと違っていて、『ドラゴンクエスト』というキーワードで同じ話題を持てる人たちが集まれる場所にゲームがあるというイメージでした。MMORPGとしては『ファイナルファンタジーXIV』は大成功していますけど、正直MMORPGは開発コストがかかり過ぎて、コスパがめちゃ悪いという現状はあります。

世界でリアルタイムに10万人、20万人とつながるのが、MMORPGですから。ディズニーランドですら一日20万人来場なんて、もう今となってはないでしょう。24時間ずっと回し続ける運営って本当に「別にそんなことしなくったって他の商売なくない?」とは思います(笑)。極端な話をすると、MMORPGは、「ドラゴンクエスト」とか「ファイナルファンタジー」という冠があるから成立しているジャンルだなと、今となっては思っています。好きな人たちがある程度いるのが解っているからリスクを取って制作できますね。

それを考えると1990年代のPBMなんて、「誰が好き好んで3〜4000人を相手にヒーヒー言いながら1ヶ月の間でやっているんだろう」と思いながら遊んでいました。普通なら、商売にするには大きくしなくちゃいけないじゃないですか。でも大きくなっちゃうと希薄になっちゃうジャンルだなとは思っていました。数千人単位ぐらいが一番ゲームとしてはいいですよね。その一方で、一番商売にしづらいという厄介さもありますが(笑)。

 

中川 なるほどプレイヤーとして楽しむのであれば、仮想社会の規模感は3〜4000人くらいだと、個人としての能動的なプレイングと世界全体とインタラクトする一体感やカタルシスがバランスするのかもしれない、と。

 

齊藤 そうですよ。表現としては難しいですけど、オートメーション化してしまうと面白くなくなるところの境界線とでもいいましょうか。私はよくMMORPGのことを「夏休みのお化け屋敷」だと言っています。

お化け休みは基本機械仕掛けのお化けが驚かすのですけど、夏休みだけは学生のバイトがサプライズなことをやってくれる。

MMORPGで言うのであれば、NPCとして用意する村人と、そこに住んでいるリアルなPCたちっていうのが交じり合っているから面白いとでも言えます。機械しかいないロボットしかいないお化け屋敷なんて言うのは、それほど面白くないでしょう。

 

中川 それは絶妙な喩えですね。

 

齊藤 そのあたり、世界最大のお化け屋敷と言われる富士急ハイランドの「戦慄迷宮」とかすごいなと思いますね。でもあれはあまり大量の来場者は捌けないじゃないですか、きっと。

で、すこし話が飛びますが、ちょうど今のNFTアートの世界って「いい人数」なんですよ。だから今、『SYMBIOGENESIS(シンビオジェネシス)[iii]』という新規IPでのNFTゲームタイトルを作っています。

イーサリアム[iv]ベースでキャラクターNFTを発行します。このNFTを持っている人と持っていない人とでゲーム内で読める物語が異なります。

物語の中にアイテムを手に入れるためのヒントとなる情報が書かれていたりして、それを元にアイテムを集めて行きます。この情報を読めるゲームプレイヤーが情報交換をするのか、誰にもいわないように隠すのか駆け引きを楽しむことができます。

 

それを私は、SNSを利用した参加型ミステリープロジェクトだった『Project:;COLD[v]』(2020年)の総監督を務めた藤澤仁を誘って始めました。彼とは『ドラゴンクエストⅩ オンライン』のときからのチームだったので「こういうことを一緒にやろう」と言ったところ、うちのスタッフからも似たような感じの企画が出てきました。

そこでそのスタッフに藤澤を紹介して作ったのが、現在進行中の『SYMBIOGENESIS』なんです。これは「NFT+謎解き」がコンセプトで、ちょうど2023年の秋ごろからNFT販売があり、そのあとすぐゲームが始まります。そこで6章で合計1万体のキャラクターNFTを販売する想定でいて、そのくらいが「至れり尽くせり」なハンドリングができる限界かなって思っています。

NFTアートの総ボリュームと、数千人で楽しんでいたPBMの人数とのボリューム感が意外と近いですよ。ユーティリティ性の高いNFTと考えると、ただアイコンのイラストを売るだけじゃないよとするところで、ゲームとしての何か新しい道が開けないかなという期待はしています。

 

中川 ああ、その流れは面白いですね! NFTゲームというとどうしてもさっきのガチャゲーの話題のような、TCG的なカードの希少性を保証することで財としての価値を高めるみたいな方向になりがちで、ゲームというよりもビジネス文脈でしか注目されない印象があったのです。

そうではなくPBMやARGからリアル脱出ゲームとか『Project:;COLD』のような近年のイマーシブ系コンテンツの系譜に至る、一回性の参加型ストーリーゲームへの参加権としてNFTテクノロジーを活用するというのは青天の霹靂です。

なかなか一般的には理解されづらいかと思いますが、蓬萊学園OBとしては胸熱しかないですよ……。

 

齊藤 そうでしょう。だから「蓬萊学園」IPを現代に復活させるとするなら、UGC[vi]で学生キャラクターの顔をある程度AIを使いながら自動生成で作れるようにして、そこに蓬萊学園の学生証のNFTで発行し、それこそ0番から9999番まで学籍番号を付けて売ると良いのかも知れません。シリアル番号があることで、お客様それぞれの視点で我々が想定しない価値が付く可能性も秘めています。

 

中川 現在、中国でもNFTを利用したエンタメで、それぞれのNFTカードにフレーバーテキストが付いていて、それを集めることによって世界観が見えてくるという仕組みのゲーム的なムーブメントが起こっているという話もあって、それが一部ですごい人気でオークションで値上がりしているという話もあります。

そのシステムを聞いて、まさに「これPBMじゃん!」って思いました。だからここに来て、絵柄や物語テキストのAI生成も含め、かつては人力の集約でしか実現できなかったPBM的な体験を自動処理でリバイバルしつつマネタイズもできるテクノロジー環境が整い始めているのかもしれませんね。

 

齊藤 『SYMBIOGENESIS』は試金石というか、今後のゲーム性のあるNFTアートの一つとして最初の一歩になりえるかと思っているので、興味深く見ておいていただけると嬉しいです。これは『蓬萊学園の冒険!』のようなプロジェクトにも本当に向いていて、この世界観で1万人ぐらいの参加者がいるのもアリだと思います。新城カズマさんの特異なフレーバーテキストに何かを秘めさせたりしてね。

ともあれ、ここはネタっぽく言っておきましょう。「笑顔で楽しんでもらえる人たちがいる以上、僕たちは諦めずに頑張り続けますよ」と(笑)。

 

中川 いやあ、アーカイプなので昔話に終始するかと思いきや、PBM的なニッチマインドの系譜を、齊藤さんがここまでしぶとく現代エンターテインメントの最先端にまで残してくださっているとは思いもよりませんでした。貴重なお話、たいへんありがとうございました!

 

 

[i]日本のシナリオライター・小説家・同人作家。
[ii]日本のゲームクリエイター。フロム・ソフトウェア代表取締役社長。
[iii]シンビオジェネシス(英: Symbiogenesis)とは、2つの別個の有機体が統合され、新たな1つの有機体を形成することをいう。
[iv]イーサリアム(英: Ethereum)とは、分散型アプリケーション(DApps)やスマート・コントラクトを構築するためのブロックチェーン・プラットフォームの名称、及び関連するオープンソース・ソフトウェア・プロジェクトの総称であり、イーサリアム・プロジェクトによって開発が進められている。
[v]インターネットを使用し、展開されるミステリ作品。
[vi]ユーザー生成コンテンツ(ユーザーせいせいコンテンツ、英: user-generated contentまたは user-created contentとは、消費者が生産者となる生産消費者により制作・提供される作品(メディア、コンテンツ)の総称である。

 

中川大地氏

齋藤陽介氏

齋藤陽介氏

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