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齋藤陽介インタビュー 第5回2023.11.17

齊藤陽介(さいとう ようすけ)
スクウェア・エニックスのゲームプロデューサー。スクウェア・エニックス取締役執行役員。愛称はよーすぴ。代表作品としては『ドラゴンクエストXオンライン』「ニーア」シリーズなど。また3Dアイドルユニット「GEMS COMPANY」プロデュース活動にも携わる。

■バーチャルアイドルユニット「GEMS COMPANY」のプロデュースで得られたもの

 

──この流れで、ゲーム業界の外側に向かっていく話を聞かせてください。2018年から齊藤は現在のVTuberの先駆けになるような「GEMS COMPANY[i](ジェムズカンパニー)」という女性バーチャルアイドルグループのプロデュースを始められていますが、それまでの活動とはまったく違った新しいムーブメントを起こそうという発想がどのように生まれたのでしょうか。

 

齊藤 「新しい技術から新しいエンターテインメントが生まれる」とは常に思っています。例えばスマホでの位置情報サービスの普及から『ポケモンGO[ii]』(2016年)や『ドラゴンクエストウォーク[iii]』(2019年)が出ましたし、今なら生成AIですね。これからもそういう技術先行のエンターテインメントは数多く出てくると思っていますが、当時はちょうどVRやARからゲームではない新しい何かエンターテインメントが生まれると思っていました。

ちょうど『ドラゴンクエストⅪ 過ぎさりし時を求めて[iv]』(2017年)の制作が終わる頃、インタラクティブに3DCGを操作できるリアルタイムアニメーションができる技術が、そろそろ出てくるだろうと予想していました。そうなれば、リアルタイムキャプチャーが簡易素材でもできるだろうと。実際、『ドラゴンクエストⅪ』のキャラクターのデータを使って実験していました。

最初のきっかけは、「VTuver」のような存在が出てくる以前、2014年に初音ミク[v]のNYライブを動画で見て、ただの映像にここまで熱狂する人たちがいるのだったら、ここで「中の人」がいてコール&レスポンスできたら最高ではないかと私の中では思っていました。すると意外と当時の技術でできそうだったので、それならばと『ドラゴンクエストⅪ』の一部のモデルチームと運営チームとプロジェクトマネージャーだけを横にスライドさせて「じゃあちょっとやってみようか」と始めたのです。

それで「ニーア」や「ドラゴンクエスト」を一緒にやった開発会社であるイルカの岩崎拓矢さんがディアステージという芸能プロダクションを持っているので、そこでオーディションして、そこに全部預かってもらうからやってみたというのがスタートラインでした。

GEMS COMPANYはavex[vi]でメジャーデビューさせてもらったのですが、やって良かったと思うのは、たとえばエイベックス・テクノロジーズの岩永朝陽さんというWab3方面の事業を精力的に進められている方など、普段ゲームの仕事では絶対会わない業界の方たちと交じり合うことができるようになったことです。そこからNFT[vii]関連でも情報交換させてもらっていて、さらに新たなテクノロジーを使ったエンタメを開拓していく触発になりましたね。

ただ、正直なところジェムズカンパニーは商売としては現状、あまり成功したとは言いづらい状態にあります。そこにはいろいろな理由があるんですが、ひとつ大きいのが同時期にスタートしたVTuberムーブメントの文脈には乗ることができなかったこと。ああいうことをやりたかったと言えばやりたかったのですけど、スクウェア・エニックスとしてあれはできなかったです。

理由としては、あそこまで炎上リスク込みの動画投稿とSNSに振り切った、タレントやコミュニティマネージメントのコントロールはスクエニではできないですし、本気でやるなら別の資本関係の会社でやらなきゃダメだと思いました。

今でこそVTuber界隈も大きくなってきてあまり炎上しなくなりましたけど、最初はめちゃくちゃ荒れ放題で、我々がおいそれと手を出せるような状況ではなかった。そこから徐々に体制やルールが作られていって落ち着いていくんですが、若年層はやっぱり多少荒くてもいいので、バラエティ色が強い方が好きですよね。

このあたりは母体のYouTuberと同じで、最初にワッと人が付いて荒れて、だんだんマトモになっていくという同じ歴史を繰り返していますね。

ウチの場合はあえて「バーチャル」という言葉は積極的には使っていなかったけど、バーチャルアーティストとしてCDを出して、ちゃんとライブをやるというふうに、オーソドックスな音楽業界のメソッドに沿ったアイドルビジネスとして運営しましょうと考えていました。

そこにファンもついてきてくれて、一応Zepp横浜とかでライブをやれるところまでは来たのですけど、コロナ禍になって勢いが絶たれてしまった。そこがジェムズカンパニーというプロジェクトの商売として一番きつかったところですね。バーチャルなのに、何故かコロナがきついっていう(笑)。

 

中川 ああ、なるほど。個人的には『N88』時代に女性アイドルキャラクターを仮面プレイしていた齊藤さんが『ユーラシアエクスプレス』での深キョン発掘を経てGEMS COMPANYに至るという、言うなれば「森永ラブ子からジェムズカンパニーへ」みたいなバーチャルアイドルPとしての系譜が面白いなと思っていたんですが(笑)、今のYouTuber〜VTuberのカルチャーと対比させることで何か見えてきた気がします。

つまりPBMとかジェムズカンパニーの盛り上がり方って、まず先行世代が確立してきたアナログゲーム文化なりアイドルビジネスなりのリテラシーやノウハウの土壌があって、それを新しいメディアテクノロジーで後続世代に展開していくことで、徐々に治安の良いコアな少数者のコミュニティからカジュアルに薄まっていくという方向でしたよね。これはmixiとかTwitterのようなSNSのコミュニティもそうだったと思うんですが。

それに対してYouTuberとかTikTokerのカルチャーの場合、新しいプラットフォームを相対的に若い世代がいきなりジャックする感じだったので、さっき齊藤さんがおっしゃったように、まず治安悪めのところから始まって、スケールが大きくなるにしたがって徐々にガバナンスが整備されていくという方向になるのではないか。これは昔のゲーセン文化とかeSportsのあり方にも通底している気がしますけど。

齊藤さんのあゆみを丹念にうかがっていく中で、そんな構図にも気づかされました。

 

齊藤 悪い意味ではなく、良い意味で「雑」でもいいから「全速力」で進める力ってのはすごく重要だと思います。ただ、スクウェア・エニックスのように上場している会社だと「雑」なところがなかなか難しいので、歯がゆい思いも沢山ありますね。

 

■TCG文化の飽和としての運営型スマホゲームへの視線と『Voice of Cards』での実験

 

──ユーザー文化のガバナンスという点では、今の国産デジタルゲームの収益の主流はスマホベースのガチャゲーをはじめとする運営型ゲームになっていますが、こうした運営型ゲームの在り方について、齊藤さんが感じられていることがあればお聞かせ願いたいのですが。

 

齊藤 今の運営型ゲームについては、ガチャビジネスである程度稼げる前提があるタイトルについては至れり尽くせりな運営体制を作れていますが、売り上げが上がらないものは本当にすぐ終わらざるをえない構造になっているため、いつか破綻すると思っています。例えば『ウマ娘[viii]』(2021年)にしても、あれだけ話題になって売り上げが立っているから、おそらく数百名近い運営チームがちゃんと付けられているわけですが、売り上げが上がらないタイトルでは同じ体制は維持できない。そうなると有力なタイトルと同じような濃い運営ができない。だから現状は健全な構造とは言えなくて、一部のリッチなタイトルへの依存が過剰になりすぎていると思います。

 

中川 プレイヤーのマインドとしても、PBM時代のように能動的に自分でゲームを楽しむためにプレイするというよりも、消費者意識で運営に「もっと石よこせ」と文句付けるような感じですね。レアキャラ等への強烈な推しマインドやステータス意識で過剰に投資する一部の廃課金プレイヤー層と、マス側の無料プレイヤー層とに二極化しがちな印象があります。そのようなプレイ意欲やスタイルに格差がある状態で、どうしていくと健全な規模感が保てるのかなと思いますね。

 

齊藤 そもそもフリープレイである以上タダで遊んでいる層と、毎月10万円払っている層には明らかな違いがある中で同じ世界で運用していけば、そりゃ無理が出てきます。では誰に合わせればいいの?ということになると、おそらく定額サブスク型が基準になっていくとよいのかなと思っています。

それで100%遊べて、オマケを楽しみたい人はもう1000円払ってくださいみたいな。あるいはディズニーリゾートのファストパスみたいに、人よりも早く体験したいのだったら多く払ってくださいとか、そういうことかなと思いますけどね。

 

中川 確かにサブスク型が浸透している海外の影響で、国産のガチャゲーにもそういう方向に舵を切っているタイトルは出てきていますね。ちなみに齊藤さんが最近「ニーア」チームの皆さんと一緒に手がけられた『Voice of Cards[ix]』シリーズなんかは、現在のガチャゲーがTCG(トレーディングカードゲーム)以降のカードデッキ文化が過剰にエスカレートした娯楽になっているのにあえて抗うかたちで、それ以前のTRPGやゲームブックの文化に回帰しながら「カード」をゲームと物語のインターフェースとして捉え直そうという試みになっていると思うんですが、そこはどのように生まれたのでしょうか。

 

齊藤 『Voice of Cards』が作られた契機は、ヨコオタロウさんが全部カードで作られた世界でゲーム作りたい、みたいな話をしていたことでした。コロナ禍前にはヨコオさんとウチのスタッフでボドゲやマーダーミステリーや『D&D』をやったりしていたんですが、コロナでなかなか部屋の中に集まれなくなって、途絶えてしまって。それで、ヨコオさん自身にとっても懐かしくもあり、新しい挑戦でもあるような実験的なゲームを小規模に作ってみたいというところから開発がスタートしました。

とはいえ、新しいことなので丁寧に作りたいなと思ってしまったこともあって、簡単に見えて結構手間かかってしまいました。TRPGとかゲームブックとかって、私たちの時代だと当たり前だけど、間がぽっかり空いてしまっているので。ただ、ニコ生やYouTubeを通じて我々世代とは異なるかたちでTRPGに触れている層はいるし、ニッチからマス寄りな人にアプローチしやすい環境にはなってきているから、お客さん目線でもこういうものに触れてもらうチャンスはあると思うのですけどね。

 

中川 インディーゲーム市場が成熟してきて、レトロ系のゲームデザインやアートワークが今は新しい感性で作られるようになってきていますからね。齊藤さんは、スクエニの重鎮として会社の屋台骨を支える売り上げを立てていかなければいけない立場でありながら、ふとした瞬間にこういう濃いニッチなものをやられることで、バランスを取れているのだなという印象です。

 

齊藤 確かに「ドラゴンクエスト」作っているときに「ニーア」作っていたり、光と闇みたいな(笑)ずいぶん対照的なゲームを作っていました。それにしても『オートマタ』が発売されて『ドラゴンクエストⅪ』が発売されて『ドラゴンクエストⅩ オンライン』の追加パッケージが発売されて、あの年は本当に大変でした(笑)。1年の中で3タイトルやるのは、さすがにしんどいどころではなかったですね。

 

[i]GEMS COMPANYは、日本の女性バーチャルアイドルグループである。
[ii]スマートフォン向け位置情報ゲームアプリ。ポケモンキャラクターと「イングレス」を組み合わせて拡張現実に落とし込んでいるのが特色。
[iii]スクウェア・エニックスによってリリースされている、Android・iOS対応の位置情報RPG。
[iv]2017年7月29日にスクウェア・エニックスより発売されたコンピュータRPG。
[v]クリプトン・フューチャー・メディアが発売しているバーチャル・シンガーソフトウェアとそのキャラクター。「電子の歌姫」の二つ名でも知られる。
[vi]エイベックス・グループ(avex Group)は、エイベックス株式会社(Avex Inc.)を持株会社とした日本の企業グループ。
[vii]NFTとは、Non-Fungible Token(ノンファンジブル・トークン)の略称。改ざんが困難なデジタルデータを証明する証書のようなものであり、それ自体に価値を見出すことが出来るため、暗号資産を用いて売買されている。
[viii]『ウマ娘 プリティーダービー』(ウマむすめ プリティーダービー)は、Cygamesによるスマートフォン向けゲームアプリ[1]とPCゲーム、およびそれを中心としたメディアミックスコンテンツ。略称は『ウマ娘』。
[ix]2021年にスクエニ・エニックスから発売された「Voice of Cards ドラゴンの島」を発端とするテーブルトークRPGをモチーフにした、全てをカードで表現したRPG。

中川大地氏

齋藤陽介氏

齋藤陽介氏

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