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齋藤陽介インタビュー 第4回2023.11.10

齊藤陽介(さいとう ようすけ)
スクウェア・エニックスのゲームプロデューサー。スクウェア・エニックス取締役執行役員。愛称はよーすぴ。代表作品としては『ドラゴンクエストXオンライン』「ニーア」シリーズなど。また3Dアイドルユニット「GEMS COMPANY」プロデュース活動にも携わる。

■ユーザーが緩くつながれる遊び場を目指した『ドラゴンクエストX オンライン』

 

──『クロスゲート』の企画当初は「ドラゴンクエスト オンライン」を目指されていたということでしたが、その悲願がスクウェア・エニックス[i]の合併を経て、『ドラゴンクエストⅩ オンライン[ii]』(2012年)で10年越しで実現したことになりますね。ただ、その時点では齊藤さんとしては「ドラゴンクエスト オンライン」ではなく、あくまで「ドラゴンクエスト」の正規ナンバリングとして出すという点にこだわられていたとか。

 

齊藤 はい、「ドラゴンクエスト オンライン」というナンバリングと独立したタイトルにしてしまうと、「じゃあ、いいや」という「ドラゴンクエスト」ファンが出てきてしまうので、堀井雄二さんにお願いして「ナンバリングじゃなければやりません」と言いました。その一方で、オフラインと勘違いしないようにしてもらう必要もあったので、結局『ドラゴンクエストX オンライン』というネーミングに落ち着きましたが。それでも『Ⅹ』とつけることでオンラインゲームを忌避する人たちの壁を一つ壊せるかなと思いました。

なので、『ドラゴンクエストX オンライン』の開発に関しては、オンラインゲームとしての遊びやすさを高めることと、「ドラゴンクエスト」としてのUI(ユーザーインターフェース)とかのテイストをどう調和させるかということに一番気を使っています。

つまり、オンラインゲームとして快適に遊べるように「チャットを前面に出せるようなモードを作る」「コマンドではなく直感的なボタン操作にする」といった部分は押さえながらも、「ドラゴンクエスト」のファンユーザーが違和感なく「ドラゴンクエスト」だと感じられるような要素を変化させてしまったら遊べる人も遊べなくなってしまうので、なるべく既存のドラゴンクエストのUIを活かしたまま作ろうとはしていましたね。

 

中川 もうスクエニの収益の一つの柱として『ファイナルファンタジーXI』が定着していた時期でしたからね。『ドラゴンクエストX オンライン』の開発や運営にPBMの体験が活かされている部分があるとすれば、どういった点でしょうか?

 

齊藤 ネットワークゲームを作るうえでのエッセンスというより、オンラインゲームだからこそ、公式のオフラインイベントが重要だなということは強く意識しながら舵取りしていましたね。かつてのPBMではゲームマスターの顔が見えていたように、作り手側の意見をちゃんと遊んでもらっている人たちに対して伝える公式イベントのような機会は重要だなと思っていました。その勘所さえ外さなければ、たくさん人が集まれば、遊び場さえあればだいたい面白くなるんですよ。

それに気づかされたのは制作当時『マインクラフト[iii]』(2010年)が出たときで、当初は「このゲームを日本人ゲーマーが楽しむのは無理じゃないか?」と思っていました。

つまり、当時のスタンドアローン型のJRPGだと、プレイヤーの手を引いたり背中を押したりするようにチュートリアルをしっかり作らないと、もう日本人のゲーマーには受けないという考え方が業界では強くなっていて。

ゲーム草創期の頃は方眼紙にマップを書いてたりしていたような人たちがいましたが、「今のユーザーはオートマッピングやオートセーブもないと遊べないのではないか」と思っていたわけです。

でも『マインクラフト』で、子供たちはそんなことは関係なく遊ぶようになっていったので、日本はまだまだ捨てたものじゃないと思いましたね。ゲームシステムとして壊れていて成立しないものはダメだとは思いますが、ゲームというのは、人さえ集まればお互いに勝手に遊び方を伝え合っていって面白いものになるんだと思います。

特にオンラインゲームに関してはその傾向が顕著だと思うので、ゲームそのものよりもまずユーザー同士が集まれる場づくりが何よりも大事だと思っていました。

そういう意味で、オンラインゲームだからどうのというよりは、いかに「ドラゴンクエスト」ならではの遊びをみんなで再発見できるかという点を重視していたと思います。

 

中川 「ドラゴンクエスト」をオンラインの遊びにするときに、ユーザーの期待は「堀井雄二の世界」をどれだけ味わえるかにあったのではないかと思います。これはPBMでも問われた点ですが、オンラインゲームにおける送り手側の作家性みたいなものとユーザー側の自由な遊びとの関係についてはどうお考えだったのでしょうか?

 

齊藤 その答えになるかどうかはわかりませんが、堀井さんと話していたときに、「『ドラゴンクエスト』って一人で遊ぶゲームだと思われているけど、それだけじゃないよね」と話していました。家で一人で遊んで、次の日学校に行って、すると「お前どこまで進んだ?」「盗賊のカギ手に入れた?」──こんな感じでゲーム世界のワードでコミュニケーション取れますよね。

まだオンラインゲームが出てくる前の一人用ゲームであっても、人と人とのつながりが面白さを増していくんだよねという話をしてくださって、なるほどと思いました。その反対方向で考えると、『ドラゴンクエストX オンライン』のオンラインに関しても、「人と遊ぶこと」じゃなくて「そこに人がいること」が重要なんじゃないかと。

だから一般的なMMORPGのように「絶対にパーティを組め」というスタイルではなく、AIで動くキャラを酒場で仲間にできるようにして一人でもゲームを楽しめる仕様にしました。物語を進めるときはそれでいいだろうと。

でもちょっとくだらない話をしたくなったときにだけ、ゲームの中の家に他のプレイヤーを呼んで話ができるというくらいでもいいのではないかという塩梅を目指しました。

 

中川 以後の日本のスマホゲームなんかも、結局そういう発展の方向になりましたよね。

 

齊藤 緩いつながりを重視する方向ですね。昔はオンラインゲームだから、世界中の誰とでも繋がれるみたいなことに期待が寄せられていましたけれども、結局蓋を開けてみたら、学校帰りにカラオケに行くぐらいのコミュニティでいいのではというふうになってきました。

そうしたオンラインゲームの可能性についての期待がだんだん落ち着いてきてしまっていたことと、スタンドアローンの「ドラゴンクエスト」はナンバリングタイトルが出るのに時間かかりすぎるので、忘れられないようにファンの人たちが集まれる場所を一つ作っておこうという目的もあって、そこにも堀井さんとの会話が活きていると思います。

 

■ニッチな感性の発掘・結集で世界的にブレイクした「ニーア」シリーズ

 

──『ドラゴンクエストX オンライン』の成功とならんで、齊藤さんのプロデュース作品としては、2023年にアニメ化もされた「ニーア」シリーズが今は最もよく知られた代表作になっていますよね。

 

齊藤 「ニーア」に関しては、最初の『ニーア ゲシュタルト/レプリカント[iv]』(2010年)の売れ行きはそこそこだったんですが、ヨコオタロウ[v]さんという天才クリエイターを諦めずに7年空いて発売した『ニーア オートマタ[vi]』(2017年)がスマッシュヒットしたのがありがたかったです。

目標として「100万本頑張って売ろうぜ」という想定だったのが750万本売れたのは、自分にとってはジャパニーズ・ドリームでしたね。

『ゲシュタルト/レプリカント』から『オートマタ』でのブレイクにあたっては、アクションRPGだからアクションゲームを作るのが上手い開発会社をどこかと考えたときに、日本の中では数少ない世界で戦える会社ならばプラチナゲームズでしょうと決めました。

そして前作で評判の良かった世界観のヨコオさんや音楽の岡部啓一さんというのはそのままに、なんとか及第点だったところを合格点に引き上げましょうということで制作に入りました。

そしてマス(大衆)に訴えるゲームは無理だとしても、この世界観を気に入ってくれるニッチな層を世界中でかき集めたらそれなりのパイになるぞというところを意識しました。勧善懲悪ではなく、ちょっと耽美な感じで好きなやつには刺さるというものですね。

 

中川 2000年代後半から2010年代前半にかけてのJRPG冬の時代って言われていた時代に、スクエニが新規IPでのコンソールゲームとして「ニーア」でそういう方向性での勝負をかけるというのは結構な覚悟が必要だったと思うのですが、そのあたり社内やゲーム業界の情勢としてはどう感じられていたのでしょうか?

 

齊藤 今ほどじゃないかもしれないですけど、あの時点で売れるものと売れないものとの差がどんどんつき始めている時代でした。

お客さんも「このIPだったら面白さはある程度保証されているだろう」という雰囲気が出てきていたので。とはいえ「ドラゴンクエスト」や「ファイナルファンタジー」だって未来永劫残るかどうかはわからないので、何か新しいことをやらないと駄目だと思っていました。

そんな中、『ドラッグ オン ドラグーン[vii]』(2003年)を作られたヨコオさんという才能に出会ったんですが、そのままだと尖りすぎていて一般には受け入れられない。だったらそのヨコオさんに新しいタイトルで、ハッピーエンドのゲームを作ろうという考え方からスタートしました。

ヨコオさんが元々あまり彩度の高い絵面が好きではなく、私も『シン・シティ』のようにモノクロベースのパートカラー的な映画が結構好きでした。そこで全体の彩度が高くない世界をヨコオさんが試行錯誤した中で生まれたのが、あの色使いでした。『オートマタ』の時は白と黒みたいな世界にしましたね。

いわゆるハリウッド映画的じゃない、フランス映画的もしくは純和風。世界で戦うAAAタイトルの戦い方ではない、マニアックなやり方で生きる術を見つけられたのが良かったと思いますね。

 

中川 そうしたニッチ層にアピールできる、才能あふれるスタッフを集めてくる齊藤さんのチーム作りのセンスというのは、齊藤さんがPBM時代に経験した仲間作りのやり方にも通ずるものがある気がしたのですが、そのあたりはどう思われますか?

 

齊藤 特に意識はしていないけど、ある気はしますね。私は八方美人なんですよ。スキューバダイビングやりながら代役で合コン行ったりとか、合コンもいくけどコンベンションにも参加したり、みたいなね(笑)。そういった意味で行くと色々な人とのつながりを抵抗感なくできるようになったかもしれないですね。その時代に。当時はPBMを知らないなんて人生の7割8割は損しているな、なんて思いながらやっていましたね。こんな楽しいことがあるのになんでみんなやらないのだろう?と思っていましたね。

 

中川 その一方で、世界的には「GTA(グランド・セフト・オート)[viii]」シリーズのようなビッグバジェットをかけたAAAタイトルが存在感を発揮してきていて、それに対して日本のソフトメーカーは何をしなきゃいけないのか、どう戦えばいいのかといった危機意識が芽生えはじめていた時期だったのではなかったでしょうか。

 

齊藤 意識はしていましたね。今ほどではないけど、もうそういう時代は始まりつつありました。ただ、『ゲシュタルト/レプリカント』が苦戦したのはもっと国内的な競合の方が大きくて、 『メタルギア・ソリッド ピースウォーカー[ix]』(2010年)の影響だと思っています。ちょうど発売が近かった。

で、『オートマタ』の場合は後ろに『ゼルダの伝説ブレスオブザワイルド[x]』(2017年)と『HORIZON ZERO DONE[xi]』(2017年)が控えていたという(笑)。「死ぬやん、こんなの!」って。

 

中川 『ゲシュタルト/レプリカント』が出た同じ頃ですが、齊藤さんと同じようなニッチをかき集めていこうという試行錯誤の末に徐々に成功していったシリーズとして、フロム・ソフトウェアの『デモンズソウル[xii]』(2009年)もありましたよね。 ここから10数年かけて『エルデンリング[xiii]』(2022年)の大ブレイクにつながっていくわけですが。

 

齊藤 「継続は力なり」とは言うものの、まさか『エルデンリング』のような死にゲーが1200万人もの人に一瞬で拡がっていくのはどうなっているのかと思いましたね。私は宮崎英高さんとも仲いいですし、天才だとも思っていますけど、死にゲーは死にゲーが好きな人がやるジャンルだと思っていました。でもそうではなかった。もう俺この業界向いてないかもって思いましたもん(笑)。

 

[i]2003年4月1日 に株式会社スクウェアと株式会社エニックスが合併し、商号を株式会社スクウェア・エニックスに変更して誕生した企業。
[ii]スクウェア・エニックスが発売・運営しているMMORPG。
[iii]マルクス・ペルソン(Notch)とMojang Studiosの社員が開発したサンドボックスビデオゲーム。
[iv]2010年にスクウェア・エニックスから発売されたPS3/Xbox 360用アクションRPG。
[v]日本のゲームクリエイター、漫画原作者。
[vi]2017年にスクウェア・エニックスよりPlayStation 4(PS4)用として発売されたアクションRPG。後に他機種でも展開された。
[vii]2003年9月11日にスクウェア・エニックスから発売されたPlayStation 2用アクションRPG。 2008年9月4日にはスクウェア・エニックスのアルティメットヒッツシリーズとして廉価版も発売された。
[viii]ロックスター・ゲームスが制作・販売しているアメリカ合衆国のクライムアクションゲームシリーズ。
[ix]2010年4月29日に日本で発売されたPlayStation Portable用ソフト。開発は小島プロダクション、販売はコナミ。メタルギアシリーズの作品。2011年11月10日にHD エディション(PlayStation 3版、Xbox 360版)が発売された。
[x]任天堂より2017年3月3日に発売されたNintendo SwitchおよびWii U用のオープンワールドアクションアドベンチャーゲーム。
[xi]2017年にソニー傘下のゲリラゲームズが開発したゲームソフト。
[xii]2009年に、ソニー・コンピュータエンタテインメント販売されたフロム・ソフトウェア開発のPlayStation 3用アクションRPG
[xiii]『ELDEN RING』は、フロム・ソフトウェアが開発し、2022年2月25日に発売されたオープンワールドのアクションRPG。

中川大地氏

齋藤陽介氏

齋藤陽介氏

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