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奈須きのこインタビュー 第5回2023.10.06

【プロフィール】奈須きのこ(なす・きのこ)
1973年千葉県生まれ。小説家・シナリオライター。武内崇らと共に同人サークルTYPE-MOONを立ち上げ、『空の境界』から始まる「月姫」シリーズで人気となる。現在は法人化した「ノーツ」所属。2004年発表の『Fate/stay night』からの「Fate」シリーズのシナリオを手掛け、特にソーシャルゲーム「Fate/Grand Order」が最大のヒット作となる。小説作品として、「DDD」「月の珊瑚」「宙の外」などがある。

■AIの進歩に負けない「ゲーム」と「物語」を人が紡ぎ続けるために必要なこと

 

──最後に未来の話をしたいんですが、奈須さん的にはPBMの集合的に共創していくムーブメントを知っている立場として、たとえばChatGPTのような文章生成AIなど進化したテクノロジーの力を借りて、参加型ゲームなどを共同創作していくといった方向について、希望をお持ちではないですか?

 

奈須 たしかにチャットAIの進化は本当にすごいので、もう何年かすればアーカイブからの学習に加えて、使う人間の趣味嗜好を反映した、壁打ち役にすぎないにしても充分満足のいくものが生まれてくると思います。
そうなった時に、中心の構造を人間が作りながら、大量のチャットAIがオペレーターになって、10万人、20万人が常に自分のアクションに対して信頼度の高いリアクションを世界からもらえるようなTRPGライクなMMOゲームができるんじゃないかという夢はあります。っていうか、誰か作って(笑)。自分もそれに1ユーザーとして参加したいので。

中川 「Fate」世界で言うと、『CCC』のBBちゃんとかムーンセルみたいな設定は、わりと生成AIをめぐる現実状況と相性がいいような気がしていて、この先出てくるだろうAIデザインみたいなものを「Fate」の設定資産で捉え返しながらプレイヤーの現実を侵食してくる……みたいな何かが出てきたら面白そうだなと思うんですが(笑)。

奈須 まぁそういう、プロトネタの逆バージョンというか、一人のプレイヤーにお助けフェアリー的なAIがパートナーになってくれるような、要するにグーグルとスマートウォッチといろいろなものが一体化した人類管理AIが出てきて、それと一緒に冒険しながら世界を楽しむみたいなRPGが出てきてほしいですね。
そういうものができたら、フィクションもノンフィクションを超えるんじゃないでしょうか。
そうして人間同士のコミュニケーションが希薄になって、人間よりAIの方が楽だよなとなれば、ようやく我々はお役御免になって、「地球の未来はAIに任せよう、人類は汎人類史が振りまいた悪とともに滅びよう」とか言えるんですけどね(笑)。

中津 新城カズマさんも物語工学論[xxviii]などで「小説家はプロットだけ考えてあとは書かなくていいんだ!」とか、「もう知的生命体の活動はAIに任せて俺たちは滅びよう」とか言ってますからね(笑)。

奈須 一人の技術者がAIをシコシコ作ってた時代には全然ダメだったのに、ネットで世界中の人間がつながった副産物として人間がAIにエサを与え続けた結果、本来100年かかるものが1ヶ月で終わっちゃった、と。
こうなると、すでに自分の世界を確立できている作家さんは揺るがないと思うんだけど、これからクリエイターして世に出ようとしている人は、今まで人類が味わってこなかった新しい苦痛、試練に耐えうる能力が必要になってしまった。
絵師の世界ではもうそれが始まって、人間が自分のやることにどれくらい強く信念とモチベーションを保つのか、あるいは、テクノロジーと共存してさらに新しい事を生みだすのか……ということがこれからの人間とAIのテーマだなと思っていたときにチャットAIが出てきてしまって、「これは文字書きも他人事じゃないぞ」と。
はじめの『人間の数値化』に戻りますけど、その作家が『何に怒り、何を悲しみ、どんな環境で育ち、どんな結末を好むのか?』は数値化できる事なので、細かくパラメータを組めれば『奈須きのこAI』だって生まれる日が来る。
パラメータはそれこそ何千にも及ぶだろうけど、DNA解析よりは現実的だろうし。それがもし実現すれば不老不死の一つの在り方になりますね。このあたり、山本弘さんの「神は沈黙せず」でやってますけど。……そう夢想する一方で、「どうしても数値化できない人間性」があってくれることも、願っています。

中川 逆に考えると、PBMで純粋に人間同士のネットワークだけの力でああいうフィクションを共同創作していた時代には、AIにいろいろなコンテンツクリエイションのお株を取られていく中で、最後に人間の役割として何が残るのかという課題のヒントがあるのかもしれません。
人間だけだからこそできる、ちゃんとそれぞれの人生にとって意味があると感じられる物語体験を生み出すには、何が必要なのかという。

奈須 多分、もはやフィクションとして作り出される物語の中心は空洞で、その外側で人間たちが奏でたメロディというか、絡み合ってできたセッションが、次の世代が楽しむ物語になるのかもしれない。それはゲーム実況やeスポーツなどが伸びてきたここ10年くらいで薄々感じてきたことですね、今のゲームシーンを見ていると。
ゲームそのものではなく、そのゲームが生み出す付加価値的な体験やコミュニケーションを楽しんでいる。それは不健全なことではなくて、ある意味、集団で生きる生物として自然なかたちに戻ったのかもしれない。自分だけの世界から自分以外もいる世界に。『ひとりで楽しむ』から『みんなで楽しむ』という、お祭的形式に戻ったというか。
とはいえ、僕はこじらせちゃったゲーマーなので、コンシューマのゲームは非日常のご馳走として、大きなテレビで一対一で向き合っています。ソーシャルゲームが「ゲームってみんなとつながって楽しむものでしょう?」というものであるのと対極に、「このゲーム体験は自分だけの宝物にしたい」という気持ちがある。
最近でいえば『エルデンリング』(2022年)がその究極でした。宮崎英高とフロムソフトウェアが創造したあの世界と誰にも邪魔されず一対一で対峙したい、という気持ちがどうしても強いんですよね(笑)。

中川 ちなみに『エルデンリング[xxvixiix]』の宮崎さんも1975年生まれで奈須さんや僕と同世代ですから、やっぱりTRPG周辺のゲームブックとか、自分たちの想像力で物語世界を補完していく原体験を思春期の頃に通過していて、そのゴリッとしたRPGの初期の感覚をずっと追求し続けている人ですよね。
その同じ出発点から言葉の表現で追求していったのが奈須さんだとしたら、宮崎さんは徹底して非言語的で身体的なナラティヴを追求していて、その古めかしい感覚が2020年代現在、どちらも世界的に開花しているのが、とても面白いと思っていました。

奈須 昨年2月24日の竹箒日記[xxix]にも書いたんですけど、『エルデンリング』は本っ当に面白くて、発売当時、『FGO』の第2部6章が終わったご褒美に2週間の「エルデン休暇」をもらったんですね。
「2月25日から2週間は休むから!」と他の仕事を前もって終わらせて家に引きこもってひたすら『エルデンリング』をやり続けたんですが、でも2週間じゃ全然終わらなくて(笑)。最後の14日目に「これで明日から仕事戻るの? まだやっと王都に来たばっかりなのに。でも約束だからしょうがないか……」って。
でも待てよ? と。『エルデンリング』はさっき話したように、自分が小中学校の時に「こんなゲームがあったらいいな、でもあり得ないだろうな」って思っていた、まさに夢のRPGそのものです。自分が夢見てきた人生の目標のようなゲームが目の前にあるのに、目先の仕事でその体験の機会を諦めるのか? と自問自答までして。
オチとして「仕事もする。褪せ人にもなる。両方やらなくちゃいけないのが社会人なんだよね」と睡眠時間を削って楽しみました(笑)。

中川 ──(笑)

奈須 それで「これが40過ぎた男のすることか」と思いながらも、「しょうがない、このために俺は生まれてきたんだから」と(笑)。
もちろんゲームも素晴らしいんだけど、ビジュアルが本当に絵画の世界のようで、その世界を冒険するうち、これでもかこれでもかとユーザーの期待を上回ってくれる。いやあ、宮崎さんには個人的にも本当にありがとうと言いたいです。

中川 奈須さんも宮崎さんも、そう簡単にAIに置き換えられることがないだろう、ゲームで追求できる人間性の最後の牙城という感じがしますよね。
人間であれAIであれ、遊び手として自分自身がプレイしたいと考える夢のゲームを作り手としてひたすら追求するというモチベーションの強さこそ、次の世代の知性に感染していってほしいなと改めて感じます。本日は貴重なお話をありがとうございました!

 

【脚注】
[xxviii] 新城カズマが提唱するフィクション創作に関する知的枠組み。2009年に角川学芸出版よりその端緒として主にキャラクター類型を分析した入門編が刊行。2012年に『物語工学論 キャラクターのつくり方』として角川ソフィア文庫で文庫化。
[xxviiix] 『ELDEN RING』は、フロム・ソフトウェアが開発し、2022年2月25日に発売されたオープンワールドのアクションRPG 。
[xxix] http://www.typemoon.org/bbb/diary/

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