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ネットゲームは宝の山 第1回(菅沼拓三)2022.12.29

【プロフィール】
菅沼拓三(すがぬま・たくぞう)
1965年東京都中野区生まれ。学生時代ホビージャパン社の編集アルバイト、ライターを経て、創刊直後のドラゴンマガジン編集部に参加。以降、主に富士見書房で「蓬萊学園」「クレギオン」「フルメタル・パニック!」「A君の戦争」シリーズ他、ドラゴン・カップ、MAGIUS、ドラゴンエイジなど、多数の新作、新企画の立ち上げに携わる。小説著作に「株式会社吸血兵団」など

 1990年代、ドラゴンマガジンの編集者だった私にとって、ネットゲームは宝の山だった。今で言えば「小説家になろう」に相当するくらい、そこには新しい才能を持った書き手と他にない発想が溢れていた。しかもだ、その宝の山に気づいていたのは私だけ、金鉱とかダイヤモンド鉱山を独り占めだ。こんなにうまい話があっていいのか、実際あったのだから、当時の私は笑いが止まらなかった。
 ネットゲーム全盛期と私の関わりは、一言で言ってしまえばそういうことだ。

(断り書き。ライトノベルというジャンル名は使わない。当時はそんな言葉はなかったし、使われるようになってからでも意味が一度ならず変わってきてしまっている言葉だから)

 もともと、当時のティーンズ文庫出版社は貪欲に「新しい才能を持った書き手と他にない発想」を求めていた。珍しい事じゃあない。新しいジャンル、新レーベルを立ち上げると普通はそうなる。とりあえず、すでに実績があって名前の通っている書き手でスタートしつつ、親和性の高かったアニメ関連のライターさんに声をかけたり、新人賞を立ち上げたりする。そうしないとすぐにタマが足りなくなるからね。

 私はそれまで紙媒体のゲーム関連の仕事をしていたので、もともと、アニメ関連出身がほとんどの他の編集者にはない人脈を持っていた。それがまずひとつめのアドバンテージだったな今にして思うと。
 ネットゲーム88も企画当初から知ってはいたが、あれは正直「なんかおかしなものを始めたな。コケるんじゃね?」と思ってスルーした。門倉さんごめんなさい。いや、言い訳させてもらえればノリが当時のドラマガ向けではなかったし、クトゥルフものは個人的には食傷気味だったのよ。
 しかし、次のネットゲーム90、「蓬莱学園の冒険!」には飛びついた。これを、多メディア展開する、と決めた。
 ずっと欲しかった「学園もの」だったからだ。

 解説が必要だろう。週刊少年漫画誌にまで「学園ハーレムラブコメもの」が溢れている今では信じられないだろうが、1990年当時、「学園もの」はジャンルとしては存在していなかった。少女小説では1989年に「ハイスクールオーラバスターズ」が立ち上がっていたが、複数ヒロインを揃えて性少年の欲望にド直球を投げたエロゲー「同級生」が出るのは1992年の事だからだ。そこからエロを抜いて手に取りやすくした「ときめきメモリアル」は1994年、さらに2年を待たなくてはならない。
 「学園ハーレムもの」は長きに渡ってゲームが独占して、伝奇要素を足されたりノベルゲームを洗練させたりして、今のFGOに至る。出版社がようやくそのヒット要素を小説に翻案してヒットさせるには「涼宮ハルヒの憂鬱」2003年までかかってしまった。この年は実は重要で、1999年に邦訳が出た「ハリー・ポッター」の「魔法学園」という舞台とハーレムを合体させた「ネギま」もこの年に始まっている。
 その文脈から次の2004年には「ゼロの使い魔」が始まり、これはネット二次創作の世界で「エヴァンゲリオン」の「やりなおしループもの」と並ぶ「異世界召喚」ものの大量増殖のきっかけとなり、今の「異世界転生」ものに繋がっていく。

 と解説が長くなったが、まあ、ことほど左様に現在にまで続くムーブメントのきっかけとなったタイトルに先行した「学園もの」だったのだ、蓬莱学園は。
 当時の私の頭の中には、「パトレイバー」の前にゆうきさんが書いていた「究極超人あ~る」があった。高校を舞台に変人達が集まってわちゃくちゃやる変なサークルもの。雰囲気が好きだったが、ゆうきさん特有の、と言うか当時のサンデー特有の、人間関係の描写が薄味なところが気になっていた。小説でやるならもっとドロドロさせないとドラマにならない、せっかくヤりたい盛りの高校生が主人公で高校が舞台なんだったら、男女関係、恋愛ものでやれば絶対面白い、と考えていた。

 考えていたところにだ、打ち合わせをした新城さんから出て来たアイデアは「蓬萊学園の初恋!」だよ。「入学式で会って一目惚れしたあの娘を10万人の生徒の中から探し出す」だよ。

菅沼拓三

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